術後3回目のうんこだ。
起き上がれない。
しばらくがまん。
いつもだったら、ヒョイと起きあげる体も、言う事をきかない。
術後は用をもよおしたところで、1人でトイレに行く事さへできないのだ。
術後用をもよおした
用をもよおしたが、立ち上がれない。
今何時だ。
ベッドと一体になってから、一体全体どれだけの時間が経過したのか。
深夜2時。
時は術後12時5分、看護師さんは、麻酔から覚め、落ち着いた時に、言ってくれた。
「トイレに行きたくなったら、いつでも言ってくださいね、がまんすると体にわるいぞ~」
かわいらしい若い看護師さんだった。
深夜2時半。
腹に張りを感じる。
看護師さんの言葉を思い出す。
がまんすると体にわるいぞ~
しかし、こんな時間に用を足すためだけに、ナースコールするのも気が引ける。
1回目と2回目の時は、昼間だったのに、なんでこんな時間に用をもよおすんだ!!自分を責めた。
責めれば責める分だけ、うんこは顔を出そうと、肛門近くに集合し始めた。
クソッ、うんこめが!!
苛立ちからか、クソッ、うんこめが!!でも、うんこが、クソッめ!!でも、どっちでも良かった。
もぅがまんの限界だ。
ナースコール
指先と尻にしびれがあった。
用をもよおしてから、1時間はとうに超えていた。
毛穴という毛穴が開き、肺ではなく皮膚で呼吸しているかのようだった。
しびれた指で、ボタンを押す。
「どうしました?」
「あの~トイレ・・・」
蚊の鳴くような弱々しい声だった。
「わかりました~」
夜明けはまだ先だ!と言わんばかりの暗さとは対象的に、看護師さんの返答は明るい。
すぐに看護師さんは駆けつけてくれ、トイレへ導いてくれた。
ナースキャップが天使の輪に見えた。
体にムチを打ち便座にすわる
おかしい。
用をもよおしてから、あれほど飛びでそうだったうんこが、存在を消した。
尻に全神経を集中させるも、うんこの気配がない。
がまんしすぎて、逆流でもしたか。
それなら、ゲロをはくみたいに、口を便器に向けてやろうか。
力の弱い子供が、できもしない大きな事を言うかの様に、体は言う事を聞かないのは承知だった。
黙って便座に座り続けた。
3分経過、5分経過・・・。
看護師さんを、うんこの為だけに、これ以上拘束するわけにはいかない。
さっとおわらせなければ・・・
焦りからか、汗らしきものが、1滴、ポタリと垂れた。
看護師さんは、非常事態に備え、トイレの前で待機してくれている。
その時だった、きたっ!!
すさまじい勢いだ。
この勢いにのり、一瞬で終わらせるつもりだった。
ところが、結果はというと!!!
ぷぅぅ~~~~~~っうぅっ(終止符)
屁だ。
屁オンリーだった。
尻を拭く必要もなく、補助棒に捕まる。
看護師さんゴメン。
用をもよおしナースコールするも結果はぷぅ~の屁のみ。
看護師さん本当にゴメンなさい。
うんこか屁かは、正常時でも判断が難しい時はあるにしても、なにもこんな場面じゃなくても。
己に判断力があればとも、一瞬思った。
一方、尻にこびりつくうんこの様に、判断力の無さを全身麻酔のせいとして、こじつける自分もいた。
もう一度誤る。
看護師さんゴメン。
看護師さんは、屁オンリーだった事に気付いていたのかもしれない。
看護師さんは、深夜にもかかわらず、笑顔を振りまいていたし、あの静まり返った静寂な中での、ラッパのチューニングの様なぷぅ~は、薄いトイレの壁をあざ笑うかの様に、透過するものと思われるからだ。
救いは、看護師さんが用を足せたのか足せなかったのか、言及しなかった事だ。
次の瞬間、救いも見事に崩された。
あっ!!流していない。
屁オンリーだったので、水を流す必要はなかったのは事実であるが、事件で言うならアリバイが崩れたという事になるかもしれない。